向井三郎さんは、アトリエから見える風景や身近な人々の姿をモチーフに、木炭による素描を中心とした平面作品を手がける美術家です。
近年の向井さんの作品は、線描のみで画面を自立させていく傾向を強め、2014年の展覧会「生きられた時間」では、人物の肖像をギャラリーの壁面に直接描いていくウォールドローイングを行うなど、実験的な制作展開も試みています。こうした向井さんの線描による作品表現は、ご自身がこれまでに行ってきた制作過程と同様に、対象を見ることとそれによって得られる視覚情報を画面に写しとっていく基本的な態度や、制作行為の反復性からつくられる多焦点的な画面を表出している一方で、作品はより平面的な図像へと移行しているように映ります。
2015年5月、生活空間の中において美術と工芸の作品を紹介するアートスタジオ〈nohako〉を開設します。 「野」は、自然のままに草や木の生える広い場所をイメージさせる言葉ですが、私たちnohakoは、「野」という場を山や川といった自然環境のみでなく、人や物が交流する都市空間も生きるものの営みに満ちた「野」であると考えています。nohakoはそうした「野」において、静かに作品をつくり続けるアーティストたちの仕事から人が生きる場での創造性や美しさを見つけていきたいと思います。
2015年のnohakoは、5月15日より向井三郎さんの絵画作品展「線の林」を、6月26日より阿部浩二さんのインスタレーション作品展「初夏」を開催します。どうぞご高覧下さい。